普通方式遺言の種類

遺言には、普通方式遺言(自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言)と普通方式をとることが期待できない場合の特別方式遺言(危急時遺言・隔絶地遺言)があります。ここでは一般的に用いられる普通方式遺言について説明します。

自筆証書遺言

自筆証書遺言は遺言者が全文、日付、氏名を自書し、これに押印することが要件で、最も簡易な方式です。遺言書自体の書き換えも比較的容易に行え、費用負担を最小限に抑えられることも魅力の一つです。しかし専門家を交えないで自分で作成する場合は、形式要件を満たさずに無効となる可能性がある上、遺言書の保管は自己の責任であるため、紛失や隠匿のおそれがあるのみならず、本人が作成した遺言であることの信憑性の低さも欠点といえます。

自筆証書遺言を作成する上でのポイントは以下のとおりです。
1.全文、日付、氏名を自書する
日付が特定できないもの、例えば○年○月吉日のような記載は無効となります。
2.押印をする
特段の定めがないため認印でも有効となりますが、遺言書の信憑性を高めるためにも、実印または金融機関届出印が望ましいでしょう。
3.加除その他変更について法律に違背がない
本文の内容変更は法律で厳格に決められており、この方式に反すると無効になる可能性があります。不安な場合は一度破棄し、新たに書き直すことも検討しましょう。
4.封をする
封にも本人が自書し、遺言書と同じ日付を書き、遺言書に押印した印と同じもので押印し、さらに封印をします。

なお、財産を一覧にしたリストのことを財産目録といいますが、2019年1月から自書である必要がなくなり、パソコン等で作成した文書をプリントアウトした書面でも、財産目録として有効となります。利便性は大幅に改善されましたが、財産目録の各項に署名・押印を要することに注意しましょう。

自筆証書遺言は、費用を最小限に抑えたい場合、頻繁に作成し直すことを想定している場合、時間的猶予が無い場合には有効な方式となります。

公正証書遺言

公正証書遺言は遺言者が遺言の趣旨を口頭で伝え、公証人が筆記することにより作成する遺言で、証人2人以上の立会いが必要になります。専門家である公証人が作成するため、様式の不備で無効になることがなく、遺言の存在および内容が明確になり、信憑性も高く、滅失等のおそれもありません。一方で、手続きが煩雑で費用が多額になる上に、遺言内容の秘密を保てないというリスクを生じます。

公正証書遺言の作成手順は以下のとおりです。
1.必要書類
・遺言者の印鑑証明書、実印
・遺言者と相続人の戸籍謄本
・証人の住民票または運転免許証、認印
・財産が分かる資料の写し
 不動産:登記事項証明書、固定資産評価証明書
 金融資産:残高証明書、預金通帳の写し
 その他:証券会社の残高証明書、貸金庫に関する資料 等
2.原案作成
事前に遺言者が公証役場に出向き、遺言内容を記した下書きを提出します。
3.証人の依頼
2人以上の証人を確定させます。未成年者、推定相続人、配偶者、直系血族等は証人になることはできません。
4.作成日当日の流れ
・証人2名立会いのもと、遺言者が公証人に口述
・公証人がそれを筆記し、その内容を遺言者および証人に読み聞かせまたは閲覧
・遺言者および証人がその内容を承認し、署名、押印
5.保管
原本、正本、謄本の3通が作成され、原本は公証役場で保管され、正本、謄本は遺言者に渡されます。

公正証書遺言は、資産が多額または資産の種類が多い場合、相続関係が複雑な場合、高度な法律判断が必要な場合にはお勧めの方式です。

秘密証書遺言

秘密証書遺言は遺言の内容は秘密にしておきたいけれど、遺言の存在は明確にしておきたい場合に有効です。遺言者が公証人1人および証人2人以上の前で封書を提出し、自己の遺言書である旨を申述します。秘密証書遺言は遺言者が作成し、公証人は一切関与しないことから、自筆証書遺言の一種となりますが、自筆が要件とされているのは署名のみとなっており、本文はパソコン等で作成することも認められています。一見すると自筆証書遺言と公正証書遺言のハイブリット版のように思えますが、要件の欠如により遺言が法的に無効となる可能性や、管理(保管)は結局本人でしなければならず、紛失や隠匿のおそれがある等のデメリットがあります。

作成の流れについては以下のとおりです。
1.遺言者が遺言書に署名、押印する
全文、日付、財産目録等は自筆である必要はありません。
2.封をする

遺言者が遺言書を封じ、遺言書に用いた印章で封印します。
3.公証人等へ申述する
遺言者が公証人1人および証人2人の前に封書を提出し、自己の遺言書である旨、氏名、住所を申述します。
4.申述を封紙に記載する
公証人が遺言書を提出した日付および遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者および証人が署名、押印します。

秘密証書遺言は、公証人にさえその内容を秘密にしておきたい場合、病気等で自書が困難な場合には効果的ですが、その利便性の悪さや実用性の観点から、ほとんど利用されていないのが実情のようです。

各種遺言書の比較

遺言書保管制度の活用

遺言書保管制度とは、法務局で自筆証書遺言を保管する制度で、遺言書保管官により、法的に遺言書の要件が満たされているかの、外形的な確認がなされます。
これをすることにより、遺言書保管所で保管されていない遺言とは異なり、家庭裁判所での検認手続きが不要となります。
検認手続きとは相続人に対し、遺言の存在やその内容を知らせ、遺言書の形状および内容等を明確にし、偽造・変造を防止することを目的とした、家庭裁判所での手続きです。
検認手続きは遺言者が死亡した後の手続きであり、家庭裁判所への申請等煩雑な事務手続きを強いられるのは残された家族です。
この負担を事前に回避することだけでも、遺言者として円滑な相続に貢献したといえるでしょう。
また費用面においても申請手数料3,900円、原本での閲覧請求1,700円と安価に利用できるため、自筆証書遺言を保管する際には、遺言書保管制度の活用を是非ご検討ください。

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