終活に備えた死後事務委任契約
終活の備えとして、死後事務委任という契約がありますが、これは委任者が生前に信頼できる受任者との間で、死後の事務に関する取り決めをする契約のことで、民法上の委任契約の一種となります。
人の死後のことまでも契約に結び付けるとは、いかに現代社会が契約により成り立っているのかがよくわかります。
亡くなった後の諸手続き問題
人が亡くなると葬儀の手配や未払いの医療費・公共料金の支払いなど多く手続きが発生します。
通常であれば、これらの手続きは親族が行いますが、昨今では身寄りのない独居高齢者、いわゆる「おひとりさま」の方も増えており、社会の多様化により、その傾向は今後ますます顕著になることが予測されます。
また、家族や親族が高齢である場合や遠方に住んでいる等で、できるだけ負担をかけたくないというニーズも多くあります。
亡くなった本人に身寄りもなく、遺言や事務委任契約等の備えがなされていない場合、葬儀などの手配をする人が存在しないことになり、また財産の処分方法も決めることができません。
このような財産は、家庭裁判所の管理下となり、相続人がいれば自ら申し出るよう広告手続きをし、並行して未払債務の清算手続きを行います。
定められた期間に相続人が現れず、相続人の不存在が確定すれば、残余財産は全て国庫に帰属します。
主催する人のいない故人の葬儀は、自治体により遺体が引き取られ、火葬して埋葬されますが、一義的手続きとして行われるに過ぎず、個別にお墓をたてられることもありません。
遺言制度にはできないこと
故人の意思を尊重させるための制度の一つに遺言がありますが、身寄りがなければそもそその遺言を実行する人がいませんし、実は遺言にはできることと、できないことがあります。
できることとしては、相続・身分に関することで、相続分や遺産分割方法の指定、財産の処分・遺贈などは代表的なものですが、その他にも子の認知や後見人・後見監督人の指定なども、遺言により法的効力が及びます。
一方で、できないこととしては、身分行為の中でも養子縁組や離婚、債務の分割方法の指定、2代先以上の相続方法、葬儀・埋葬方法の指定などが挙げられます。
遺言には付言といって、遺言者の希望やこれまでの感謝の気持ちを記載することができ、付言で指定することはできますが、法的効力は及びません。
任意後見契約にはできないこと
安心した老後生活をサポート、本人の財産を適正に管理する制度の一つとして、任意後見契約とういうもの用意されています。
将来判断能力が低下したときに備え、健康なうちから身上保護や、財産管理を信頼できる人に依頼することができ、判断能力が低下したと認められた時点から効力が発生します。
ただし、制度の目的から保護の範囲が及ぶのは本人の生前に限られており、葬儀や埋葬など死後の事務に関して委任することはできません。
死後事務委任契約にできること
そこで、死後事務委任契約活用することにより、これらの課題を解消することができるケースがあります。
例えば以下のような委任事項が想定されます。
・親族、相続人関係者への死亡の連絡
・葬儀、埋葬、納骨に関する手配
・未払いの医療費、施設利用料の支払い
・行政官庁への各種手続き
(死亡届、年金受給停止、公共料金、税金 等)
・生活用品、家財道具等の整理処分
・相続人、縁故者への遺品の引き渡し(形見分け)
・建物明け渡し、家賃や敷金等の清算事務
契約様式は特段定められていませんが、委任者が死亡してからの事務であり、委任者の意思を明確にするためにも、公証役場で公正証書化することが望ましいでしょう。
「おひとりさま」や親族に負担をかけたくないといった方以外にも、内縁関係のパートナーがいる方や散骨・樹木葬など火葬以外を希望される方は、死後委任事務契約を締結しておくことでスムーズな手続きが期待できます。
必要となる費用
死後事務委任契約に伴い発生する費用は、以下のようなものが想定されます。
・公証役場に支払う手数料
・専門化への相談料、書類作成費用等
・受託者への報酬
もちろん、民法には契約自由の原則があるため、これらの費用を省くこともできます。
しかし、委任契約は、委任者の死亡により契約が終了する旨が民法で定められており、死後事務委任契約の取扱いには慎重な検討が必要となります。
契約書の作成には十分注意して、相続手続きに強い専門家のサポートを受けることをおすすめします。
なお、受託者への報酬は預託金と併せて預けておくことが多いようですが、報酬の前払いに抵抗がある場合は、遺産と清算するなど後払いによることも可能です。
終わりに
死後委任事務契約は、委任者の死後の葬儀や埋葬、身辺整理事務においては有効に活用することはできますが、その範囲を超え、委任者の財産の管理・処分方法を委任することはできません。
それらの必要があれば遺言、死因贈与、信託などを併せて検討してください。
一つの制度に全てを託すのではなく、それぞれの制度の良いとこ取りをした、オリジナルな終活を目指しましょう。
行政書士くにもと事務所
特定行政書士 國本 司
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