終活に備えた財産管理委任契約

高齢化社会の進展に伴い、老後の生活資金の確保や財産の有効活用、または管理方法などに注目が集まっています。
日本国民の全資産のうち、70%以上を60才以上の人が占めているというデータもあるくらい、現役世代よりも高齢世代の方が、圧倒的にお金持ちなのです。
財源となるのは、これまでの貯蓄、資産運用益、年金等ありますが、その中でも一番のウエイトを占めているのが退職金でしょう。
それでは、このような資産をどのように活用し、管理していくべきなのでしょうか。
心身ともに健康で、判断能力が十分であるときは問題ありませんが、将来の加齢による判断能力の低下や、事故や病気による身体の力の衰えに不安を抱いている方も少なからずいるようです。
つまり、終活の始まりです。
こういった不安要素を解消する方法として、いくつか制度が用意されていますが、今回は財産管理委任契約についてみていきます。

財産管理委任契約とは

財産管理委任契約とは、日常生活に支障をきたすような、身体の状態に不安がある人が、信頼できる親族や知人に財産の管理や療養看護を委任する契約です。
身体の状態に不安があるとは、意思能力は有しているものの、身体の自由が余りきかない程度が想定されています。
認知症を発症しているような場合は、財産委任管理契約を締結することはできません。
具体的には、病気や怪我で外出ができない加齢による体力の衰えで財産管理や各種手続きに支障をきたす場合による委任などが該当します。
本人によらない書類申請や契約締結では、委任状を求められることが多々ありますが、財産管理委任契約の締結により、その後一切の委任状の役割を担うことになります。
財産管理委任契約は、民法上の委任契約の一種であることから、口約束でも有効となります。
しかし、対象となる財産、代理権の範囲、報酬など細かく定める事項が多いため、書面での契約、特に公正証書を交わしておくことが良いでしょう。

成年後見制度との違い

成年後見制度では、精神上の障がいや本人の加齢などで、判断能力の低下が認められた場合に限り効力を発揮しますが、財産管理委任契約は、身体の自由が制限されれば効力を発する点においては、より身近で使い勝手が良いでしょう。
ただし、成年後見制度で認められているような、受任者が委任者の行為を取消す権利は付与されません
また、財産管理委任契約は、受任者に対する監督や報告義務がない場合が多く、透明性の観点においては、不安を感じざるを得ないといえるでしょう。

財産管理委任契約でできること

財産管理委任契約は、本人の判断能力がある状態でも利用でき契約内容や報酬なども自由に設定できることが大きな特徴であり、例えば、以下のようなことが設定可能です。

【財産管理】
・金融機関からの預貯金の入出金
・金融資産の管理や運用
・公共料金や税金の支払い
保険や不動産の契約手続きおよび解除 など
【療養看護】
・医師などの医療従事者との連絡や相談
・病院や介護施設などの入院や転院の手続き
・在宅医療や訪問看護などのサービスの手配
介護保険や障害者手帳等の申請や更新 など

財産管理委任契約の注意点

財産管理に関する全ての事項において、手続きを代行してもらえるわけではありません。
例えば、金融機関によっては、財産委任管理契約に基づく代理人による取引を認めていないところもあり、この場合は窓口での代理手続きに応じてもらえません。
また、不動産の売却について代理権を有していたとしても、取引関係者は本人の意思の確認を望むでしょうから、実質的に本人の関与なしで売却することはできません。

なお、いくら信用できる人だからといって通帳や印鑑を預けたままにすることはよくありません
できる限り自分で管理し、必要に応じその都度依頼することで、余計なトラブルを回避することができます。

受任者が財産を適切に管理しているか不安な場合は、財産管理監督人を指定することもできます
財産管理監督人には、委任者の相続人が最も適していますが、弁護士、司法書士、行政書士といった専門家に依頼することもできます。
ただし、専門家に依頼する場合は、別途報酬が必要になるため、受任者の選定はしっかりと検討してください。

任意後見契約への移行

財産管理委任契約は意思能力求が伴っていることを前提としており、本人の加齢による判断能力の低下が認められる場合においては効力を有しません
このことまで見越すのであれば、任意後見契約を併用することをお勧めします。
本人がしっかりしている間は財産管理委任契約により、認知症などで本人の能力の衰えが見られれば任意後見契約により、それぞれ代理権を行使することで財産を守ります。
この方法は一般的に移行型(財産管理委任契約⇒任意後見契約)と呼ばれており、1枚の契約書に盛り込むことで、スムーズな移行の期待と安心した老後に備えることができます。

終わりに

財産管理委任契約は、信頼できる人に委任するのが前提ですが、身内や周囲に頼れる人がいない場合だけでなく、親族に迷惑や負担をかけたくない場合にも有効です。
遺言制度や任意後見制度などを上手く併用し、抜かりの終活に取組んでください。

記事の投稿者

行政書士くにもと事務所
特定行政書士 國本 司
愛媛県松山市南江戸3丁目10-15
池田ビル103号
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