緊急時に有効な特別方式遺言とは

遺言の方式にはいくつかの種類があり、多くの人が普段よく耳にするのは、自筆証書遺言や公正証書遺言かと思います。
これはら普通方式遺言といって、死亡後の自分の財産の行方について「誰に」「どれだけ」「どのように」を明確にし、また未成年後見人の指定などの身分に関することを、生前に前もって準備することを想定した制度です。
しかし、人生いつ何が起こるかはわかりませんし、一刻を争うような場面に立ち会うかもしれません。
例えば、親族が入院中に状態が急変した場合や、交通事故などの不測の事態のもとでは、民法で定められた厳格な要件を満たす遺言書の作成は困難であることは容易に想像がつきます。
そこで普通方式遺言と比べて大幅に要件が緩和されている特別方式遺言によりこれらの問題を解消します。

特別方式遺言とは

特別方式遺言は危急時遺言と隔絶地遺言に大別されます。

危急時遺言とは、疾病等により死亡の危険がさし迫った者が、証人3人以上の立会いのもと、遺言の趣旨を口頭で伝え、書き取ってもらうことで成立する遺言方式です。

隔絶地遺言とは、伝染病などの行政処分により、交通を絶たれた(地震等の災害により交通が遮断されている場合も含む)場所にいる者ができる遺言の方式で、警察官1人および証人1人以上の立会いのもと、遺言書を作成することができます。
遺言者、立会人、証人の署名押印が必要となりますが、署名押印が困難な場合は、その事由を付記すれば免れることができます。

一般危急時遺言の適用要件

ここでは一般危急時遺言の適用要件について詳しく解説していきます。

1.遺言者が死亡の危急に迫られている

遺言者自身の置かれている状況が、病気や事故により生命の危険が差し迫っており、直ちに遺言書を作成することが必要でなければなりません。

2.証人3人以上の立会いがある

未成年者、推定相続人、受遺者、それらの配偶者等、一定の者は証人になることはできません。
緊急時に利害関係人でない者を3人集める煩わしさも、危急時遺言の利用の弊害となっています。

3.遺言者が証人の1人に遺言の趣旨を口頭で伝える

死期が迫っている危急時遺言においては、言語力に支障をきたしていたり、意思能力が欠けていた等が後々争点になることも少なくありません。
医師の立会いの求めや、スマートフォンなどでの録音・録画機能を活用することで、トラブル回避に備えましょう。

4.口頭で伝えられた証人はこれを筆記する

自書であることは求められていませんので、パソコン等で作成することも可能です。
遺言をした日付は要件とされていませんが、余裕があれば日付を記載することでより信憑性が高まります。

5.遺言者、他の証人に読み聞かせ、または閲覧させる

遺言者が話した内容と筆記した内容が一致しているかを確認します。

6.各証人が署名捺印する

使用する印鑑は認印でも問題ありませんが、必ず証人全員の署名捺印が必要です。
遺言者の署名捺印は不要です。

一般危急時遺言の注意点

証人は、遺言の日から20日以内に、家庭裁判所に遺言の確認の申立てをしなければなりません。
その後、調査官による調査が開始され、遺言者が生存している間は、直接本人に意思の相違がないことを確認し、遺言者が死亡している場合は、証人、相続人、医師などから聴き取りにより確認します。
家庭裁判所は、調査官の報告書により、遺言が遺言者の真意に基づくものと心証が得られれば確認の審判が行われます。
なお、確認の審判だけでは遺言の執行をすることはできず、相続が開始した後に、法務局で保管されていない自筆証書遺言などと同様の家庭裁判所での検認手続きが必要となります。
また、確認の審判は、遺言の有効・無効の確定を目的とするものではないため、審判後も遺言者の真意を含めた遺言の効力を争うことは可能です。
特別方式の遺言は、遺言者の病気等が治癒し、普通方式遺言を作成できる状態になった時から6カ月生存した時点で無効となります。
あくまで緊急措置としての制度ですから、体調が回復すれば速やかに普通方式遺言の作成を心がけましょう。

終わりに

一般的な遺言とは、遺言者の意思を明確にすることや円滑な相続を実現することを目的とし、本人が事前に準備する言わば終活の一部です。
一方で今回ご紹介した特別方式遺言(危急時遺言)は、緊急時の対策としての臨時的遺言の要素が強く、必要を迫られる状況に立ち会う人は多くはないでしょう。
しかし万一に備え、予備知識としてストックしておくことが、不測の事態での的確で迅速な対応につながるのではないでしょうか。

記事の投稿者

行政書士くにもと事務所
特定行政書士 國本 司
愛媛県松山市南江戸3丁目10-15
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