特定行政書士だけに認められた行政不服審査(審査請求)とは
行政書士として開業してから約3年の月日が経過しましたが、先日はじめて審査請求のご相談を受け、受任することとなりました。
事件内容の詳細は控えますが、行政庁からの処分理由があまりにも事実と乖離しており、クライアントの名誉を棄損するものであったため、その処分に対して不服を申し立てる案件です。
クライアントとの協議の末、最終的には請求取下げという結論に至りましたが、特定行政書士の資格を保有している当職としては、知見を広げることができ、大変有意義な経験となりました。
特定行政書士の行政不服審査
ここでは、行政不服審査(審査請求)の定義や意義、また具体的な手続きの流れについて解説していきます。

特定行政書士とは
特定行政書士とは、通常の行政書士の業務に加え、行政不服申立て手続きの代理業務を行うことが許された資格です。
この資格を取得することで、行政庁に提出する書類に係る審査請求や再調査請求、再審査請求などの代理業務が可能になります。
特定行政書士は、行政書士としての業務範囲を大きく拡大し、国民の権利救済のために重要な役割を果たします。
通常の行政書士の業務
通常の行政書士と特定行政書士の主な違いは、業務範囲にあります。
行政書士の業務は、官公署に提出する書類、権利義務に関する書類、事実証明に関する書類の作成、代理、相談業務です。
官公署に提出する書類の作成、代理、相談業務
行政書士は、官公署(各省庁、都道府県庁、市役所、町役場、警察署、税務署等)に提出する書類の作成、手続きの代理、これに付随する相談を業とすることができます。
例えば、建設業許可申請、産業廃棄物処理業許可申請、農地法に基づく許可申請、食品営業許可申請などが該当します。
その書類のほとんどは許認可申請に係るもので、その数は1万種類を超えるとも言われています。
権利義務に関する書類の作成、代理、相談業務
行政書士は、権利義務に関する書類について、その作成およびこれに付随する相談を業とすることができます。
権利義務に関する書類のうち、代表的なものとしては、遺産分割協議書、各種契約書、示談書、協議書、内容証明、定款等があげられます。
事実証明に関する書類の作成、代理、相談業務
行政書士は、事実証明に関する書類について、その作成およびこれに付随する相談を業とすることができます。
事実証明に関する書類とは、社会生活に交渉を有する事項を証明する文書で、実地調査に基づく各種図面類、各種議事録、会計帳簿、財務諸表、申述書等が該当します。
特定行政書士の業務
特定行政書士は、行政庁の処分に対して行われる審査請求や再調査請求といった不服申立て手続きを代理することが可能です。
この「行政不服申立て代理権」は、通常の行政書士には認められていないものであり、特定行政書士が持つ特徴的な権限の一つです。
例えば、建設業許可申請が不許可となった場合や、産業廃棄物収集運搬業者に対して事業停止処分が下された場合に、不服を申し立てる手続きの代理を行えます。
このような代理権を通じて、特定行政書士は行政処分に対する国民の権利を守り、行政との間で橋渡しの役割を担います。
資格取得には研修と考査試験
特定行政書士になるためには、まず、前提条件として行政書士の資格を有していることが求められます。
そのうえで、日本行政書士会連合会が実施する特定行政書士法定研修を受講し、修了する必要があります。
この研修では、一定時間以上の受講を求められ、研修修了後に実施される考査試験に合格することが特定行政書士資格取得への最後のステップです。
研修内容は、行政法の実践的な学びを含み、行政に関連する法律の解釈や手続き代理に関わる知識が深掘りされます。
このように、特定行政書士とは、行政書士の基礎知識に加えて、専門的な能力を身につけた資格であるといえます。

行政不服審査とは
行政不服審査法は、行政庁の決定や処分に不満を持った際に、その判断の見直しを求める法的手続きに関するルールを定めた法律です。
この法律により、行政処分の適正さを再検討し、市民の権利が不当に侵害されないようにすることが目的とされています。
行政不服審査法が必要な理由
行政不服審査法が必要とされる背景には、市民と行政の間に生じるトラブルを迅速かつ公正に解決する仕組みが求められるという考えがあります。
行政処分は市民の日常生活や権利に直接影響を及ぼすため、誤った処分がなされると大きな不利益が生じる恐れがあります。
例えば、税金に関する納税通知、事業や営業に関わる許認可行政処分、児童手当の支給停止など、行政庁が行う法的な拘束力を伴う判断や決定が該当します。
この法律は、簡易迅速な手続きで適正な判断を追求することができ、裁判のように多額の費用や時間を必要としない点が特徴です。
市民として注意点を理解した上で、この法的手段を活用することで、自身の権利が保護されやすくなります。
審査請求できる期間と期限
行政不服審査請求を行うには、通常、審査請求は処分の通知を受け取った翌日から起算して60日以内に行わなければなりません。
この期限を超えると原則として請求は受理されませんので、早めの対応が必要です。
ただし、特別な事情がある場合には、期限が延長されることもあります。
処分通知を受け取ったことに気付けない正当な理由が認められる場合が該当します。
行政不服審査を検討する際には、まず自分のケースが期限内に該当するかを確認するようにしましょう。

審査請求の基本的な流れ
- 処分庁から市民への処分
- 行政庁の処分とは、国や公共団体が行う行為のうち、直接的に市民の権利義務に影響を与える行為であり、人の収容や物の留置といった事実上の行為も含まれます。
また、市民が行った適法な申請を恣意的に退けるような行政庁の不作為も審査請求の対象となります。
- 審査庁への審査請求
- 審査請求書には以下の内容を正確に記載しなければなりません。
・処分を行った行政庁の名称
・不服の対象となる処分の具体的な内容
・不服を申し立てる理由とその根拠
・申立人の氏名、住所 など
- 審理員の選任
- 審査請求の審理は審理員により主宰され、審査庁に所属する職員から選任されることとなります。
審理が公正に行われることを確保するため、処分に関与した者や当事者の関係者などは審理員に選任されることは認められません。
- 審理員による審理
- 審理は原則として書面で行われますが、必要に応じて口頭での意見陳述が認められる場合もあります。
審理中には処分庁からの弁明書、審査請求人からの反論書および参加人からの意見書など提出する書類が定められています。
また、必要に応じて証拠書類の提出要請や審理員による現場検証なども実施されます。
- 審理員が審査庁へ意見書を提出
- 審理員が審理手続きを終結すれば、審査庁がすべき裁決に関する審理員意見書を作成し、これを事件記録とともに、審査庁に提出します。
- 行政不服審査会への諮問
- 審査庁は、審理員意見書の提出を受けた後、裁決の前に行政不服審査会に諮問しなければなりません。
行政不服審査会は審査請求に係る事件について調査審議する権限が与えられています。
- 行政不服審査会による答申
- 行政不服審査会は調査等の手続きを終えれば、審査庁に対し審議内容を記載した答申書を送付します。
また、審査請求人および参加人には答申書の写しを送付し、同時に答申の一部内容を公表します。
- 審査庁による裁決
- 審査庁はこれまでの手続きを鑑み、以下の裁決(最終判断)をした上で、審査請求人に通知します。
【却下】
請求自体が不適法である
【棄却】
請求は適法であるが、主張内容に理由がない
【認容】
請求は適法であり、主張内容にも理由がある

終わりに
行政不服審査法は、市民が行政庁の決定や処分に不満がある場合にそれを見直すための重要な法的手続きです。
この制度を活用することで、行政判断が適切かどうかを第三者の視点で検証する機会を得られます。
特に、簡易で迅速な手続きが特長であり、裁判と比べて負担が少なく、権利を守る一助となります。
また、不服申し立てを通じて行政運営の透明性や信頼性が向上するという点も重要な意義といえるでしょう。
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