相続分に上乗せできる寄与分と特別寄与料とは

現在は介護保険制度の拡充により、介護施設や介護サービスが充実し、高齢者にとって老後生活の選択肢は多くなっており、家族構成やライフスタイルの変化なども大きな要因の一つといえるでしょう。
高齢の方が、生涯現役を貫く姿勢や、老後生活を介護施設で欧化するライフプランをみると、若い世代もまだまだ将来に希望が持てるのではないでしょうか。

一昔前までは、二世帯または三世帯での同居生活が当たり前で、親の老後のサポートは子の責任という風潮もあり、今から見ると少し窮屈な社会のようにも思います。
もちろん、民法にも定められている、親子間での扶養義務や、親族間での相互扶け合いの義務は美徳であるし、次世代に残すべき日本の文化であることには間違いありませんが、多様性が尊重される近代社会では、多くの課題を抱えていることもまた現実です。

寄与分とは

相続問題でよく起こる事象としては、親の介護や家業の手伝いをした者と、そうでない者のとの間での遺産分割問題があげられます。
法定相続分によれば、前者と後者は同じ扱いで遺産を相続することになりますが、それでは献身的に介護をした者や、自分の財産を支出して家業を守った者は不公平と感じるでしょう。

そこで寄与分という制度により、このような問題に対し、その者が他の相続人に比べ相続分を増加させ、実質的な公平を期することで解決を図りました。

例えば、本人Aが死亡し、相続開始時に遺産が1,000万円あった場合の法定相続分は、妻Bが2分の1(500万円)、子C子Dがそれぞれ4分の1(250万円)となります。
しかし、そのうち子Cの介護により寄与分が10分の1であったとすれば、まず1,000万円から10分の1の100万円を引き、残りの900万円を法定相続分によりそれぞれ分割されます。
寄与者である子Cは、法定相続分の4分の1(225万円)に、寄与分の10分の1(100万円)が加算され、相続分は325万円となります。

寄与分の種類と注意事項

ここまでは、医療費や看護費用の支出を避けることにより、相続財産の維持に寄与する「療養看護型」を例に寄与分を見てきましたが、その他の寄与の類型としては、事業に関する労務の提供があった場合の「事業従事型」、財産上の給付があった場合の「財産出資型」、扶養することにより支出の減少、財産の維持に寄与した場合の「扶養型」、財産を管理することにより支出の減少、財産の維持に寄与した場合の「財産管理型」があります。

寄与分は、相続人による寄与の意思表示が必要となり、療養看護や財産の維持・増加といった特別の寄与でなければならず、通常の家事労働などは寄与には該当しません。
また、無償での行為か、それに近い状態でなければ寄与分は認められず、相当の対価を得ていれば、決済が終わっているものとして扱われます。

なお、寄与分の割合(価額)は、共同相続人全員での協議により決めますが、貢献度を具体的な金銭価値に変換することは容易ではありません
そのため、協議が難航することは珍しくなく、調わないときは、家庭裁判所によって決定されますが、その対価は期待するような額にならないことが多いようです。

特別寄与料とは

従来は、代襲相続人や養子を含む共同相続人にしか寄与分は認められていませんでしたが、2018年の相続法改正により、被相続人の親族にも特別寄与料の制度が認められました。


先ほどの例によれば、子Cの妻である嫁E(本人Aからすれば嫁)が本人Aに対し献身的な介護をした場合では、嫁Eは相続人、つまり寄与者ではないため、これまでは寄与分を請求することはできませんでしたが、前述の改正により、寄与に応じた額の金銭支払いを請求することが可能となりました。
請求権者には、何ら身分関係のない者を含めず、親族に限定しているのは、権利関係の不雑化や、紛争の長期化に発展する可能性を回避するためです。

寄与分の権利自体には消滅時効がなく、遺産分割の成立まではいつでも主張可能なのに対し、特別寄与料は相続の開始および相続人を知った時から6か月経過したとき、または相続開始の時から1年を経過したときは請求ができなくなります
当事者間での協議が調わないときには、この期間内に、相続が開始した地を管轄する家庭裁判所への請求が必要です。

終わりに

介護問題の延長には相続問題が待ち受けており、相続する人、される人全員の問題です。
寄与分や特別寄与料を遺言で指定することはできないため、相続分の指定または遺贈といった形で遺言をすることとなります。
遺言には付言といって、遺言者の希望や想いを伝えることもできますので、そこで感謝の気持ちと併せて記すことも、他の相続人への配慮の観点からすれば良策となる場合もあるでしょう。
ただし、付言には法的効力はないので、内容には十分注意してください。

また、そもそもの介護問題についても、任意後見制度や民事(家族)信託などを利用して、元気なうちからしっかりと準備することで、家族への負担を軽減するだけでなく、本人の快適な老後生活をサポートしてくれることにもつながります。
“もしも”に備え様々な制度を検討し、心身共に充実した老後生活を送ってください。

記事の投稿者

行政書士くにもと事務所
特定行政書士 國本 司
愛媛県松山市南江戸3丁目10-15
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