相続人権利の剥奪と付与(欠格・排除・代襲)
相続が開始された後、遺言がない場合や、遺産分割協議が調わない場合などには、誰がどれだけ相続するかは、あらかじめ法で定められています。
法定相続人は、被相続人(死亡した人)の配偶者および被相続人の子、子がいない場合には被相続人の直系尊属(両親等)、さらに直系尊属がいないときに、初めて兄弟姉妹が代わって相続人になることができます。
ただし、本来は相続人である者がその権利を剥奪され、相続人に該当しなくなる場合や、相続人に該当しない者が相続人となるような、例外的な制度が設けられています。
それでは、相続の権利を奪われることになる相続欠格と排除についてみていきましょう。
相続の欠格とは
相続欠格とは、一定の重大な事由により、その者に相続させることが妥当でない場合になされ、これは被相続人の意思に関係なく、法律上当然に相続権を失います。
具体的には以下の者が該当します。
1.故意に被相続人や相続関係者などの死亡に関与し、刑に処せられた者
2.被相続人の殺害を知りながら告発、告訴をしなかった者
3.詐欺、強迫により相続に関する遺言(撤回、取消し、変更)を妨げた者
4.詐欺、強迫により相続に関する遺言(撤回、取消し、変更)をさせた者
5.相続に関する遺言書を偽造、変造、破棄、隠匿した者
相続開始後に欠格事由が発生した場合は、相続開始時に遡り、相続権を失います。
これらは悪質な犯罪行為の要素が非常に強く、当然の措置といえるでしょう。
相続の排除とは
次に排除ですが、これは相続欠格に該当する程ではなく、相続人に相応しくないと認められる事情がある場合に、相続人の権利が奪われる制度です。
具体的には以下の場合が該当します。
1.被相続人に対し虐待、重大な侮辱をした場合
2.著しい非行があった場合
排除は相続欠格とは異なり、被相続人の意思によるもので、生前に排除請求をするか、または遺言書にその旨を記す必要があります。
いずれにせよ、公平を期するために、裁判所の判断に委ねることになります。
また、排除はその法的性質上、宥恕(ゆうじょ)が認められているのも特徴的で、相続権を失った者を許して、その権利を回復させます。
代襲相続とは
それでは、次に本来は相続人ではないが、相続人となることができる代襲相続についてです。
代襲相続とは、相続の開始以前に、相続人となるべき子または兄弟姉妹が①死亡 ②相続の欠格事由に該当 ③排除 のいずれかにより相続権を失った場合に、その者の直系卑属(子や子がいない場合は孫)が、代わって同じ立場で相続を承継する制度です。
配偶者または直系尊属(両親等)が相続人の場合は、代襲相続はありません。
なお、代襲相続は、子に関しては、孫、ひ孫と特段の制限はないですが、兄弟姉妹はその子のみ、つまり一代のみの代襲に限られています。
相続を放棄した者がいれば、その者は初めから相続人ではなかったことになるため、その直系卑属は代襲相続することはできないので注意が必要です。
また、代襲相続人の相続分は本来の相続人である者と同じとされており、代襲相続人が複数人いれば、頭数で均等割りすることになります。
代襲相続の具体例
代襲相続は少しわかりにくいので、下図で整理しましょう。
本人Aが死亡した場合、妻Bと子Cが法定相続人となりますが、子Cがいなければ孫Dに、さらに孫Dがいないときにひ孫Iに代襲相続することができます。
一方で兄弟姉妹の場合は、子C(代襲者を含む)および父E、母Fがいないとき、初めて弟G、妹Hがこれらに代わり、相続人となることができます。
弟Gがいないとき、甥Jは代襲相続可能ですが、弟Gおよび甥Jがいないときでも、又甥Kは代襲相続をすることができません。
仮に弟Gが相続を放棄した場合は、甥Jも代襲相続をすることができなくなります。
終わりに
これらの制度の利用頻度はあまり多く想定されてはいませんが、何が起こるかわからないのが人生であり相続です。
個々の価値観やライフスタイルの多様性が尊重される昨今では、今後ますます家族構成の複雑化が進行するでしょう。
相続欠格・排除、代襲相続の制度趣旨をよく理解し、有効に活用することをお勧めします。
行政書士くにもと事務所
特定行政書士 國本 司
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